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報酬額と65歳以降の在職老齢年金

 在職老齢年金という制度をご存じでしょうか。この制度は、一定の収入がある年金受給者の年金支給を停止するという制度です。

 以前ご相談を受けたお客様で、「退職はしたくないが年金を受給したい」という方がいらっしゃったため、同じようなお悩みがある方のお役に立てればと思い、制度と事例をご紹介します。

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(1)在職老齢年金の概要(65歳以降)

 厚生年金を受給できる年齢の方が働きながら年金を受給する場合、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。これを在職老齢年金といいます。

※在職老齢年金は60歳代前半のものと65歳以降のものとで内容が異なりますが、今回は65歳以降のものをご紹介します。

 年金の支給停止となる基準額は下記のとおりです。

①基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円以下の場合

 全額支給

②基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円を超える場合

 基本月額 ー(基本月額+ 総報酬月額相当額 ー47万円)÷2

<用語の定義>

 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額

 総報酬月額相当額:(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計) ÷12

65歳以後の在職老齢年金の計算方法のフローチャート ※日本年金機構ホームページより抜粋

 つまり、「1月当たりの老齢厚生年金の報酬比例部分の金額(基本月額)」に、「毎月の標準報酬月額に過去1年間の標準賞与額(月割)を足した金額(総報酬月額相当額)」が47万円を超えると、その「超えた金額の半分」が年金の支給停止金額(月額)となります。

 基本月額を調べる方法としては、日本年金機構の「ねんきんネット」の利用登録をして確認する方法がおすすめです。アクセスキー(誕生月に年金事務所から郵送されてくる「ねんきん定期便」に記載されています)やパスワードなどの設定が必要ですが、一度登録してしまえば年金事務所からの通知物をウェブ上で見れたり、将来の年金額の試算結果を見られるため便利です。(参考:日本年金機構 https://www.nenkin.go.jp/n_net/)詳しくは年金事務所へお問い合わせください。

(2)設例

【前提】

①社長が自己所有の建物を会社に賃貸しており賃料を月額10万円から月額30万円に変更

②社長の役員報酬月額(額面)を60万円から40万円に変更

③社会保険料(月額、折半額)が83,013円から57,687円に変更

④基本月額:6万円

⑤源泉所得税と子ども・子育て拠出金は未考慮

【結果】

(A)変更前の社長と会社の手取金額

 ・社長の手取額:(600,000円-83,013円)+100,000円+(60,000円-60,000円)=616,987円

  ※(報酬額面-社会保険料個人負担分)+受取家賃+(基本月額-厚生年金支給停止額)

 ・会社の支払額:(516,987円+83,013円+83,013円)+100,000円=783,013円

  ※(社長への支払額+社会保険料会社負担分+社会保険料社長負担分)+支払家賃

(B)変更後の社長と会社の手取金額

 ・社長の手取額: (400,000円-57,687円)+300,000円+(60,000円-0円)=702,313円

 ・会社の支払額:(342,313円+57,687円+57,687円)+300,000円=757,687円

 変更の前後を比較すると、社長の手取額は月額85,326円増加し、会社の支払額は月額25,326円減少しました。その結果、社長と会社合わせて、月額で110,652円の手残りが増える結果となりました。

 なお、実際には役員報酬の額面を変更してから4か月目から社会保険上の額面金額が変更となるため(随時改定)ご注意ください(詳しくは社会保険労務士または年金事務所にお問い合わせください)。

 不動産をお持ちでない場合には、毎月の報酬を受け取る代わりに役員退職金として積み立てる方法があります。退職するまではお金は受け取れませんが、毎月の報酬額は減るため会社と社長の社会保険料の負担は減り、役員退職金は報酬・賞与に該当しないため、年金の支給停止額の計算には含めません。

 また、退職金として受け取った場合には、退職所得控除の金額が大きいため税務上のメリットは多いです。ただし、役員退職金は実際に支給するまで損金に計上できないため、退職金を支給するまでの年度は法人税等の負担は増えることに注意が必要です。

 将来もらえる厚生年金の金額は、今までに支払ってきた年金保険料の金額を基に計算されます。そのため、上記の方法で現時点の社会保険料の負担が減るということは、将来受け取ることができる年金額が減るということのため、将来受け取る年金額を減らしたくないという方は上記の方法を採用する際は注意が必要でしょう。

(3)まとめ

 厚生年金保険制度は老齢により働けなくなった場合を想定して設計された制度のため、「働いている(=報酬をもらっている)」場合には、在職老齢年金により年金の支給が停止されます。つまり、この考え方によると不動産や株式投資による収入は年金制度上は「働いていない」という考えになるため、報酬として受け取るか家賃として受け取るかによって支給停止額の変動が生じてきます。

 なお、家賃の相場からあまりにもかけ離れた金額を設定する場合には、税務上否認される可能性があるためご注意ください。もし今回ご紹介したようなケースに該当する場合は、会社からのお金の受け取り方を考えてみるのもいいかもしれません。

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